めげない

 家呑みしたら記事を書くルールの徒然日記。

正義!

チェーン・ポイズン (100周年書き下ろし)

チェーン・ポイズン (100周年書き下ろし)


久しぶりに図書館にいけたのいつだっけ・・・ということで忘れないうちに感想を。







やりきれない現実的な世界の出来事に最初は暗くなりならが読み進めたんだけれど、やはり私はこの小説家の方と相性がいいんだろうなぁと思いながら淡々と読み進め、「ええーその最後って・・・、こういうことだよね?!こういうことだって信じていいよね?救われていいでしょこっちでは?」という読後感でした。前代未聞ていうか、私はちょっと初めて出会った感覚のような、よしもとばななさんの「彼女について」をふと思い出す感じ、というか。最後にどんでん返しがあってでもそれを明確な言葉で説明しきってはいない感じ、というか。うーんうまくいえないけれども。



物語の視点が記者、そしてその記者が追う、もうすでにこの世を去った1人のOL、という2点を交互に行き交う文章なので、そこもちょっともにょっとした、なんというか違和感まではいかなくとも一筋縄ではいかない物語なのだなぁと分かる感じ。謎を追っていく記者より私たち読者はもう1つのOLの視点を借りて一歩先にいけているのでは、と思いきや、一緒に戻ったり、間違いを間違いだと言い出せない、こちらも腑に落ちない気持ちになったり。とにかくちょっと複雑なのかなぁ、ていうかこれってあとこの残りのページ数で解決してくれるんだろうか?とじりじりしながら読み進めていった後の結末がまたこれ、なんかすげぇ後味だなーていう。同じことばっかり言ってしまうのは、なんというか最後の結末にびっくりしたりそっかーと思ったりいやそういうことだよね?って思ったり、色んな気持ちがあるからですが。

私はこの作家さんの描く男性主人公の「普通な男性の普通な役回りが目をつけ始めるととても意外にかっこよく見える」雰囲気が好きなのですが、それを超えるぐらいに好きなのが女性主人公です。さばさばしていたり、自身は自身の外見にさほど興味がなさそうでもそれなりに恋人や言い寄ってくれる人がいる、というのが私の好きなよしもとばななさんの小説に存在する女性かな、と私なりに思い返すのですが、この方の小説に存在する女性主人公はもっとヒーローっぽい正義の持ち主、という印象。モテなくてわが道を行くような、けれど最後の最後に正義の心に従って誰かを助けようとしたり自分もそのめんどくさいと思っている渦の中に結局飛び込んでいくところなどが好きで。純粋な憧れとともに、応援をしたくなる、というかファンになってしまいそうなぐらいのカッコいい要素が含まれているところが好きです。

この視点となったOLさんも私の大好きなそんなカッコいい要素を持った女性だった。人を振り回したり才能をもって人をひきつけていくタイプではなく、自分の領域を自分の力で守り、淡々と過ごす日々を自分のものにしている、結局は人を最後の最後で裏切らない人、というか。何より自分のことをようく理解していて、自分のふがいなさに多少の諦めをもっているようなところがいい。自信過剰でも、もっている才能を確かに手にしているわけでもなく、ただ自分がどういう人間なのか、そしてどういう人間として今現在の社会に存在するのかもちゃんと知っている人。そんな人が結局は正義を選んでいくのがすごく素敵。正義が何かを分かっていないと正義を貫くことはできないし、正義が何かを分かっていても別の形の正義があると知ればそれを持ってして納得できることもあるかもしれない。けれどこの女性が選択していく正義はほんとうに誰が見ても正義そのもので、それをまっすぐに選べること、選ぶ道へと足を踏み出し進んでいけることが、強くて潔くてカッコいいんですよね。しかも、天然でバカ正直なだけじゃない人が、それでも正義を選んでいくその様、というのがなんとも好きです。

この話に出てくる孤児の少数人が暮らす家はまるで今の日本ではありえそうでありえなさそうな微妙なラインで、工藤とそのOLが最後、途方もなく現実的な計算を立ててそこを守っていく流れにハっとなった。結局、死ぬまでの暇つぶしとしてボランティアをしていたOLが、自分の力量のなさと現実のやるせなさに死ぬことを決めたOLが、自分にかけた保険金でその家の存続を現実的にきちんと整理整頓した。その確かな手ごたえすら感じる未来に自分がいないことを、OLは当たり前に悔やむ。どんな心境なんだろう、というよりも、そんなことってないじゃない、と思わずにはいられない流れに胸が詰まる思いがした。小説の中ぐらいはいいじゃん、どうにかなったっていいじゃん、自殺を思いとどまって、これからも一緒に息をすればいいじゃん、という気持ち、それが最後になんだか肩透かしをくらったような(笑)ええーそういうことかよ!という流れで彼女は今もまだ自殺せず子供たちと、そして工藤とあの家にいるのだろう、と思う感じが不思議です。いやー不思議な読後感。私はあんまり手広く読まない人なんであれなんですけど、小説の中にはこういうどんでん返しがたくさんあるんですな〜。ミステリとかだとほとんどそうなのかな。


とりあえず冒頭でも言ったとおり、私はこの作家さんととても相性がいいです、文章の相性が。どんなに面白そうな内容でも、最初の1ページで「ううーん、合わない!」となってしまうのが小説だと思うんですが、それとは逆に「そんなつらい内容なのかよ、ううう、この人の気持ちに共感しちゃったじゃないか!つらいぞ読むのが、」と思う内容であっても、相性がよかったらその文章を追いかけてどんどんページを進めることが出来る。いやーとにかく久しぶりに読んだ本多さんだったのですが、やっぱり読書はいいっすね!自分の時間をかけて文章をただ読む、その後に待っている読後感は素敵だぜ。久しぶりに「あー読書した!」という時間を過ごせました。